インタビュー : Arico&Gumi

インタビュー : Arico&Gumi

予定調和なしの即興でたどり着いた銀河の果て一

聴して感じたのは、冬の空を流れる流星群のようなピアノと、それを見上げた時の暖かく白い吐息のようなバンスリによる遠い空の果てへの憧憬。

Aricoというピアニストと、Gumiというバンスリ奏者。そもそも西洋クラシックとインド古典音楽というスケールの概念もリズムの概念も (というかチューニングさえ) 全く違う音楽なのに流れるような演奏に仕上がったこのCDを聴いて、まずベーシックな部分の調整から難航したんじゃないかと想像したのだが、返って来た答えは意外だった。

「CDは完全な即興です。打ち合わせもせず、コードも決めず、始まりも終わりも、何も決めないでレコーディングしました。(Arico)」そう言われて再度CDをかけると、1度目とは全く違う表情が見えて来た。4拍子とか3拍子と言った、定まった拍子がないのだ。最初に感じた綿密に作り込んだ曲構成というイメージを見事に裏切る、お互いの感覚のみに任された一発録りの即興演奏。

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ジャズともインド古典音楽とも違う即興によって、フレーズそのものよりもむしろノスタルジックな感覚や情景的なイメージがダイレクトに伝わるような演奏が流体のように姿を変えて展開される。

今回そんなレコーディングの裏側について二人に答えてもらうことが出来た。

BNU: まず、お二人の出会いから教えて頂けますか?ピアノとバーンスリーという、普段ならば接点のなさそうな奏者のお二人がどのようにして意気投合されたのか、気になります。

Arico (以下A): ヨシさん…この度は貴重な機会を頂いて本当にありがとうございます!

早速ですが…ご近所の本屋「ホホホ座」に置いてあったショップカードから、インド料理店「ガラムマサラ」を知りました。そこの海老カレーがメチャ美味しくて思わずママさんに話しかけたら、もしかしてあのアリコさんですかと…?! DJを担当するラジオ番組を当てられてすっかり意気投合しました!そこへ偶然gumiさんが立ち寄られて…ママさんから紹介されたことがきっかけです。昔から色んな楽器に興味があり、以前タブラを学んでいたこともあり、gumiさんのバーンスリーを聞いてみたいと思いました。

Gumi (以下G): そう、本当に偶然。僕はずっとピアノやギターとの即興デュオを模索していたところなので、ちょっと運命的なものを感じました。とはいえ、僕からしたら憧れの人。実はすぐにセッションさせてくださいとは言えずに、ガラムマサラの店長さんに僕のCDを渡して、Aricoさんがいらしたときにでも渡しておいてください。とお願いして、なんとかセッションや収録という運びになりました。

Aricoさんは過去に笙やタブラも演奏されていたと伺いました。その経験と、今回のコラボレーションには何か繋がりがあるのでしょうか。

A: そうなんですよね。随分前だけど、ピアノがほとほと嫌になり、ピアノから離れていた時期があるんです。チェンバロ、笙、タブラを学びました。インド人の天才的なタブラの先生にレッスンを受けた時、最初の1音で音楽の根源に触れた。身体の中心をとらえるパワフルな響きでした!楽器もジャンルも関係ない。自分自身の音を追求しなさいと…その1音に教えられたのです。長い間ピアノから離れていたのですが、その時のタブラの1音がピアノに戻るきっかけをくれました。gumiさんに出会って、当時の記憶が再び鮮明に蘇り、目に見えない不思議な繋がりを感じました。

チューニングもスケールもリズムの概念も違う2つの楽器の共演、というのは言葉にするほど容易ではないと思われるのですが、どういったところで苦労されたでしょうか。

A: 一歳から受けた父の英才教育のせいで、まあこの英才教育がくせ者で、随分その後の反抗期が長かったのですが(笑)虫や鳥の鳴き声。換気扇や工事の音などすべてドレミでわかるんです。知らないうちにいつからか、自然界の中にある心地よい響きをドレミに変換して作曲してました。自然の中から湧き出たような、豊かな響きを感じるgumiさんのバーンスリーとも、自然なカタチでコラボ出来ているせいか、苦労はなくて楽しいばっかりです!

G: 僕も楽しいですよ!お互い即興なので、この世界観がどこまで続くんだろう!?どういう世界がそこにあるんだろう!?って。で、そもそも、うまく合わせよう!って感じの音楽じゃないんですよ。僕たちは。こういう曲にしたいっていう狙いがまずないので。(笑)

2人で音出してみて、いい感じだと思うんですけど、皆さんどうですか?って感じ。

CDを拝聴しましたが、あなた方の音楽はまるで寄せては返す波のようだと感じました。それは多分、お二人が呼吸を読みながら即興で綾織のようにお互いの音を有機的に絡め、ループのように感じられても実は全く同じパートがないからなのではないかと思います。ライブは基本的に即興演奏だと伺いましたが、CDの演奏も一発録りですよね?CDも即興なのでしょうか。ライブとCDでのお二人の演奏の違いを教えて下さい。

A: CDは完全な即興です。打ち合わせもせず、コードも決めず、はじまりも終わりも、何も決めないでレコーディングしました。レコーディング前、gumiさんは何か不安そうだった(笑)でも、何も決めない方がきっとより自分たちらしい音楽になると。本能的にそう感じたんですよね。しょうがないな。Aricoさんがそうしたいなら合わせますよって…だから何処へ向かうのか、いつ終わるか全くわからない、大変スリリングな音楽になりました!(笑)ライブも即興だけど、事前にコードを決める時と決めない時の両方あります。ライブはお客さんと共に作る感じです。

G: ライブとCDの違い、、、ほとんど無いですね。もちろん、「感じる」という意味ではお客さんを感じるバイブレーションに支えられてライブの即興演奏ができてると思います。でも、収録の時も打ち合わせ無しの一発どりだったので。

今回のCDは曲名がどれも星の名前ですね。アルバムタイトルの「Longing」と合わせると、遥か遠くの星々に想いを馳せている様が想像されるのですが、タイトルに込められた意図や背景を教えて頂けますか?

A: 以前、gumiさんが作られたサイトからインタビューを受けたことがあり、音楽は「あこがれ」そのものだとお話しました。追っても追っても完成に届かない。音楽が完璧な形だと感じられるのはほんの一瞬で、ずっと理想形を追っかけてる感じがするのです。gumiさんからCDタイトルを「Longing」にしませんかと。曲名は、永遠に届かない星の名前にしてはどうかと。すぐOKしました!

G: 星の名前、よく分かりましたね!冬の星座なんですが、僕もあまり詳しくなくて、実際はAricoさんの知人の星に詳しい方に協力してもらいました。音楽性が、即興で流動的、いわば印象派な感じでしょ。なので、この曲はこう、こうってメッセージ性のある名前って付けづらいんですよね。限定的だし。で、星座という統一テーマではめ込んでみると、なんとなく心地よかった。僕たち「心地よい」っていう直感だけで動いてるとこありますから。(笑)

即興について伺いたいのですが、お二人が即興演奏をされる時、予めスケール(またはラーガ)は決まっていると思うのですが、展開はもちろん、テンポや拍子すらも決めずに演奏されているように感じます。自由度が高い状態で、その時々の演奏はどのように固まって行くのでしょうか。演奏する環境からのインスピレーションでしょうか、それとも内から湧き上がるイマジネーションに従って表現されるのでしょうか。

A: 先ほど、レコーディングの時にスケールも何も決めなかったとお伝えしましたが、レコーディング後半、マネージャーのticoさんから言葉を頂いたんですよね。例えば「あこがれ」とか。

頂いた言葉のイメージを膨らませて、即興演奏するってなんかとても愉しかった。今まで味わったことがない感覚でした。ライブ時は、コードを決める時と、何も決めない時があります。お客さんからお題を頂いたり。コミュニケーションが深まってとても楽しい。空間~場の雰囲気ももちろん影響されます。内からふいに沸き上がる感覚に身を任せるコトも…色々ある。固まっていく、見えてくる感覚より、ずっと浮遊しているような感じに近いかな。そこに留まっていたいと一瞬思っても、お互いどんどん瞬間瞬間で変容していく。絶えず夢を夢見心地で追っかけてる…そんな感じ。

G: 僕はインド古典音楽から音楽自体をスタートしているので、譜面も読めないし、コードも知らないんですよ。面白くないですか?絶対音感のあるピアニストとこんなに無知な僕とのデュオ。

僕の知ってるのは、インド古典で使う音階制約のようなラーガだけ。でも、このラーガをヒントにしてライブの時はセッションする事もあります。後は何かテーマを設けたり。例えば、過去のliveでは「春」「桜」など2人の間にテーマイメージのみを置いて、後は即興で描くような感じ。

面白かったのは、テーマ自体もlive直前の楽屋とか決めちゃう感じだったから、それだったらお客さんに挙手してもらってテーマを言ってもらおうか。とやってみたんです。それで京都公演は「未来」。東京公演では「石庭」「島」「光」。お客さんにテーマをその場で頂くことで、より「即興」という醍醐味の音楽が全員参加型になったような気がした瞬間でしたし、とても盛り上がりましたよ!

お客さんのテーマ出しは、実際、ありがたいんです。これ、即興で何かをする人ならわかると思うんですが、ちょっと予定されていたり、台本みたいなものがあると、それに意識がいっちゃって、「瞬間」に在ろうとする意識と、「うまくやらないといけない」意識の2つが混在しちゃって、なんというか即興だから降りてくるダイナミズムみたいなものにベールがかかっちゃう時があるんです。でも、お客さんにその場で言っていただけることは、即興の神様から頂いた言葉に感じますよ。笑

お二人のソロ活動で表現されていることとArico&gumiで表現されていることは違うものなのでしょうか。

A: ソロ活動では、今まで作曲した映画音楽やTVドラマ、美術館や博物館の映像のオリジナル音楽、季節に呼応する懐かしい音楽を(童謡やスタンダードジャズの名曲やクラシック曲など)オリジナルアレンジで、即興を交えながら弾いています。Arico&gumiの活動ははじまったばかりなんですが、今までダンサーやジャズミュージシャン、舞台の音楽とか即興で色々演ってきましたが、gumiさんとの即興は他の即興とはちょっと違うように感じる。何が違うかよくわかんないけれど何かが違う。それがとても心地いい。

G: 僕はインド古典音楽を学び表現しているんですが、これも即興。でも、ここにはラーガという古典としての表現の核のようなものを即興でどう描くか。というテーマや美学がはっきりあるんですね。Aricoさんとの表現では、なんだろう、自分たちの力で新しい世界観を創造するって感じでもないんですよ。「そこに在った」っていう感じ。だから、2人とも音が鳴り出すとたぐい寄せられるように、ここだったのかな。って感じの安心感と期待感で演奏していて、どこまでも狙いのない表現をただ続けていければと思います。

Gumiさんはご自身でキールタンのイベントを主催されたりと、神との繋がりを重んじつつ演奏されているように思われるのですが、フォーマットの違う音楽をされる時もそういった音楽の神性について感じられることはあるのでしょうか。

G: 音楽って神性ですよね。というか、世の中のありとあらゆるもの全てが神性だと思います。神性の定義は人や国によって様々だと思いますが、これは神話や聖典、神様や仏教のあれこれに詳しければ神性っていう話ではな無いように思います。実際、僕も知らないことばかりです。(笑)

「心地いいな。」「美しいな。」って感じる気持ちや対象物の中に宿るものって、深く探っていくとそういう神性という言葉のような、それでいて表現できないアンタッチャアブルなものだと思うんです。

僕は自分の活動の全てが、そのアンタッチャブルなところと深く繋がっていたいと思っていますし、願わくば、音楽をさせてもらっている事の世界やみんなへの恩返しのようなものになればいいと思っています。

それがキールタンのようなインド讃美歌でも、インド古典音楽のような神々や人々へ捧げる音楽でも、Arico&gumiのような即興芸術でも、全く変わりはありません。

普段音楽以外でインスピレーションを受けるものごとはありますか?

A: 人が創り出したモノ以外に強くインスピレーションを感じます。自然界に存在する音や色がこの世で一番美しく心身に優しい存在だと感じています。今の季節は台所で食器を洗いながら聴く水道水や、強めの換気扇の音が涼しくて心地よく、ついつい聴いてしまいます。

G: 僕はどうかな。最近、またヨガや瞑想を生活のサイクルに入れだしたので、より内側からの響きを聴き取りやすくなってきたかも?(笑)

お互いの演奏で、どこに惹かれますか?

A: gumiさんの紡ぐ音をじっと聴いていると、自然の中にある風や雨や葉っぱが揺れる響きに近いと感じる。自分の意志や感情を超えたところで、何か太古のあずかり知れない世界と繋がっているようなね。底知れない不思議な魅力を感じます。gumiさんのバーンスリーに恋しちゃったみたいですよー笑

G: Aricoさんの演奏は、大胆かつ繊細。そして、一瞬先さえも予定されていないほどに「その瞬間」のみに生きてる演奏をしています。好きな人多いと思うなあ。僕、ピアノソロが好きなので他にもたくさん聴きますが、Aricoさんの表現も唯一無二で最も好きな演奏家の一人です。

海外ツアーの予定はありますか?今後の計画を教えて下さい。

G: 実は海外の方からたくさん好評いただいてるんですよ!まだ、オープンにはできないんですが話は有ってどんどん演奏してみたいと思っています!

特に海外でどんな感想を頂けるのか、とても興味があります。僕のバーンスリーはインド古典がバックボーンでやはりこぶしの効いた表現がふんだんに入っています。Aricoさんの表現は西洋や東洋を超えた表現だと思いますから。

国内外問わず、いろんな場所と人との間で演奏してみたいなと思います。なんなら、芸術や音楽好きでない人の所へもでかけて演奏してみたい。だって、僕たち自身が何か音楽をやってるって感じでも無いから。(笑)

A: gumiさんいいこと言うなあ。ホントそんな感じです!(笑)

また来年に向けて、Arico & Gumiとしての新作のレコーディングも進行しているという話もきけた。サウンドクリエーターの田中圭吾を迎え、エレクトロニクスを加えたアンビエントな音世界の中での即興演奏を録音しているという。完全アコースティック録音だった今作と比べてどのような進化を聴かせてくれるのか、楽しみにしてほしい。

— Interview by Yoshi

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